中医学のススメ~健康を守る古くて新しいトレンド~

西洋医学とは異なるもの

中医学は西洋医学とは全く異なる理論体系を持っており、具体的な病気の治療に対するアプローチも異なります。

 

中医学では、人体には「気・血・津液」という3つのものが流れていると考えます。

中でも重要なものは「気」で、気は例えて言えば、目に見えない生命エネルギーのようなもので、気が正常に流れることで健康が維持されると考えられています。

 

気が体のどこかで滞ったり、何らかの原因で不足した場合に病的な状態になると考え、滞った気をうまく流したり、不足した気を補ったりする治療法がとられます。

西洋医学では、症状の有る部位を直接治療しますが、中医学は病気の根本原因は体の気のバランスが崩れたことだと考え、気のバランスを整えることを考えます。

また西洋医学では、人体を構成する臓器を構造的に捉えます。つまり、解剖を通じて目に見える臓器(心臓、胃腸、腎臓など)を対象にしますが、中医学では臓器を機能的(働き)に捕らえます。

 

中医学の理論は中国伝統の「陰陽五行説」を基礎に置き、5つの臓器(五臓)に五行説の要素を当てはめます。具体例を挙げると、「心」には「火」が有り、「腎」には水が有ります。

 

健康な状態では「心火」が降りて「腎水」を暖め、逆に「腎水」が昇って「心火」を抑えます。この状態を「心腎相交」と言います。何らかの原因で「心火」が不足すると相対的に「腎水」が勝り、体に冷えの症状が現れます。

逆も同じで、「腎水」が不足すると「心火」が勝って、その結果火照り、のぼせが現れます。これを「心腎不交」といいます。身体のバランスを整えるということは、こういうことです。

 

中薬(漢方薬)による治療

中医学の治療法には、「中薬」(漢方薬)、「鍼灸」(針治療)、「推拿」(マッサージ)の3つが有りますが、中心は中薬による投薬治療です。

 

中薬と西洋薬の大きな違いは、西洋薬は単一成分の薬を単独で使いますが、中薬は異なる数種類の薬剤を混合して使います。

中薬の中で、単一成分の薬剤を単独で使うケースはほとんどありません。

 

また、中薬は、まず医師が患者を診察して治療方針を決定し、それからたくさんの処方の中から患者に合ったものを選びます。

さらに、患者の体質などに合わせて、それぞれの薬剤の比率を変えることもあります(これを「加減」といいます)。

即ち、中薬は患者の症状、病因、体質に合わせてオーダーメードで処方されるのです。

 

中薬の処方は、その多くが先人たちの知恵と努力によって生み出されたものです。

中医学は100%経験医学で、長い年月の間に、たくさんの医者がいろいろな症状(病気)を直す処方を考え、実践してきました。

ある意味、中医学は、膨大な数の人体実験の成果の上に成り立っていると言えるでしょう。

 

中薬の原材料の多くは自然に生えている植物です。

動物性のものもありますが、割合は多くありません。

工場で化学合成される西洋薬に比べ、植物由来の中薬は穏やかに効き、副作用もはるかに少ないのが特徴です。

 

西洋医学を超え、それを補うもの

本場の中国では、中医学と西洋医学の長所を融合すべく、長年研究が続けられています。

 

近代から数えると、西洋医学はわずか200年ほどの歴史しかありません。しかし、中医学は数千年の歴史を有しています。

西洋医学は人体を臓器の集まりと考え、病んだ臓器を別々に治療します。しかし、中医学では人体を臓器の集合体というような捉え方はしません。

 

中医学では、人体を一つの小宇宙と捉えます

即ち、人間の身体と宇宙は繋がっていると考えます。この考えを「天人相関説」と呼んでいます。

一人の患者が複数の病気を持っていても、悪いところを別々に治すのではなく、身体全体の(気の)バランスを整えるという方向で治療の方針を立てます。

 

さらに、中医学の素晴らしさは、「未病」を治すことができる点です。

未病とは、明らかな症状として発症していない、言わば病気の一歩手前の状態を指します。西洋医学の検査では結果が出ないものも、中医学から見ると治療の対象なのです。

現代の視点から言うと、予防医学が非常に発達しています。

そこから、「病気にならないためにはどうすればよいか?」という考え方、即ち「養生」という発想が生まれました。

 

明治維新以来、日本の医学界は西洋医学を基礎として発展しましたが、一方ではそれまでの「漢方医」の伝統が置き去りにされて来ました。

日本の漢方も中医学をルーツに持っており、根は同じです。西洋医学の弊害を補い、私たちの健康を守る古くて新しい「トレンド」として、中医学をおすすめします。

中医学も中国伝統文化の一部です。中医学の考え方を生活の中に取り入れることで、健康について見直してみてはいかがでしょうか。

 

日本における中医学、特に中薬の研究は富山医科薬科大学(2005年に富山大学と合併)が有名ですが、開業医の小高修司先生も早くから中医学を日本に導入されて来ました(現在は、東京都大田区で中医クリニック・コタカを開いています)。

小高先生の一般向けの解説書では、下記のものが有ります。

 

  • 『中国医学から見た病気でない病気』 講談社ブルーバックス
  • 『中国医学で病気を治す』 講談社ブルーバックス
  • 『わかる!東洋医学 発病前に防ぐ“未病”健康法』 株式会社カザン
  • 『老いを防ぐ「腎」ワールドの驚異 中国医学のアンチエイジング』 講談社+α新書 
  • 『再発させないがん治療―中国医学の効果』 東洋学術出版社